【書評】時代とともに移り変わるカフェ文化を解き明かす『日本カフェ興亡記』

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何気なく足を運ぶカフェ。そこで味わうコーヒーの香りや雰囲気、何気ない会話。カフェは私たちの日常に欠かせない存在です。しかし、その背後にはどのような歴史があり、どのような価値を提供してきたのでしょうか?

高井尚之著『日本カフェ興亡記』は、日本におけるカフェの歴史を紐解くとともに、多様化していくお客様のニーズにカフェがどのように答えてきたのかの変遷を、著者独自の視点から描いた一冊です。

時代を変えた2つのブランド:ドトールとスターバックス

日本のカフェ文化に大きな変化をもたらした2つのブランド、それが「ドトールコーヒー」と「スターバックス」です。

1980年代当時のコーヒーはまだ贅沢な嗜好品であり、カフェはそんなコーヒーを味わうことのできる特別な場所として親しまれてきました。

そんな中、「ドトールコーヒー」は「早い」「安い」「うまい」コーヒーを提供することで、コーヒーをカジュアルに楽しめる存在へと変革します。また「スターバックス」は、「ミルク系のコーヒーを提供する」「お客自身で注文をアレンジできる」など、新しい飲み方を提案することで、コーヒーに変革を生み出します。

本書ではこれら業界の巨人を比較しつつ、どのような試行錯誤を重ねて顧客に愛されるブランドを築き上げたかを鮮明に描いています。この成功物語には、時代に先駆けて新しいニーズを掘り起こしたリーダーたちの情熱と工夫が詰め込まれています。

新しい価値の模索―多様なニーズに応えるカフェたち

セルフサービスのカフェが主流となったことで、消費者はより気軽にコーヒーを楽しめるようになりました。しかし一方で、それに不満を持つお客様も表れはじめます。また、市場が成熟するに伴い、消費者のニーズも多様化していきました。そんな中で様々な価値を提供するカフェが次々と誕生していきます。

  • 古き良き時代の喫茶店を提供する「上島珈琲店」
  • 消費者の利用シーンに合わせた空間を提供する「銀座ルノアール」
  • 時間帯で異なる姿を見せるプロント
  • 気軽さと居心地のよさを重視した「コメダ珈琲店」
  • 地域密着型の「ヒロコーヒー」
  • ドッグカフェやスポーツカフェ、メイドカフェといったテーマ型のカフェなど

本書では、それぞれのカフェが消費者の心を掴むために独自の付加価値を追求する様子が描かれています。どのカフェも一つとして同じでない「特別な価値とストーリー」を持っていることに気づくでしょう。

まとめ

『日本カフェ興亡記』は、日本におけるカフェの歴史を丁寧に紐解くと同時に、各店舗がどのように独自の価値を生み出し、多様化するニーズに応えているのかを解き明かします。同じ「コーヒーを提供する」という基本要素から、これほど多種多様な価値が生み出されていることには驚かされます。利用者目線からカフェの歴史や魅力を発見することはもちろん、業界研究の視点や差別化のための戦略を学ぶなど、さまざまな読み方ができる一冊です。

ぜひ手に取って、カフェの物語に浸ってみてください。

書籍情報

書籍名:『日本カフェ興亡記』
著者:高井 尚之
出版社:日本経済新聞出版社
発売日:2009/05/01

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